てんとう虫コミックス『ドラえもん 第16巻』

初めてパソコンが家にやって来たときOSはWindows98で、ローマ字入力を覚えた自分が最初に調べた言葉は「ドラえもん」だった。そこには未知の世界が広がっていたんだけど、この話は長くなるから今度にしようと思う。

 

タイムマシンの絡む”いい話”が多い16巻を読む。

 

1.音のない世界

もしもボックス非万能説を立証するエピソード。

全人類が盲目になった世界を描いた『ブラインドネス』っていう映画(もしくは原作の『白い闇』)があるんだけど、それの耳が聞こえないバージョンがこれ。音のない世界では筆談がデフォで、ジャイアンも筆談で歌う。「ひどい歌は字を見ただけで寒気がする」

2.時間貯金箱

「お前が無駄に過ごした今日は、昨日死んだ誰かが生きたかった明日なんだ」みたいな感じの無意味な格言を思い出す。

時間操作系の道具は数多くあるが、どれも影響を与える範囲がまちまちで、F先生あんまり考えてないんだろうなっていう気がしてくる。

3.オールシーズンバッジ

「半径三メートル以内を好きな季節にできる」らしい。

効果範囲を作中で明記した道具は案外すくない。

4.りっぱなパパになるぞ!

人生訓に満ちたエピソード。パッとしないなりに前向きに生きる大人のび太は、なかなかカッコいいと言わざるを得ない。

「25年後の世界でのび太たちが暮らすのはマンション12階の68号室」とかそんなカルトクイズ対策の知識はどうでもいい。

5.お金なんか大きらい!

いい話の後は酷い話と相場で決まっている。

「お金が嫌いになる薬」を飲んだのび太と「気前が良くなる薬」を飲んだのび助が出会った結果、財産の押し付け合いが始まる。効果は「薬を効かなくする薬」を飲むまで続き、あわやのび助は浮浪者に家を譲渡する寸前であった。

薬系の道具とか価値観が変化するタイプの道具はだいたい極端すぎる効果しか発揮しない。今回の薬は昏睡強盗にしか使えないと思う。

6.デラックスライト

浴びせるとなんでもデラックスになる光が出るライト。

雑種犬に照射するとプードルに変わるという発想は純血主義感がある。

7.立ちユメぼう

装着すると現実の認識が変化するヘッドギア。設定を「かわいそうなユメ」にした時の世界の変貌ぶりはサイレントヒル感がある。装着時の「ポワンポワ~ン」っていう擬音がいい。

8.四次元ポケット

のび太の腹の四次元ポケットを見て「それが何でもすてていいポケットね。」「あんたがごみすて場。」とか言いながら生ゴミを捨てていく主婦たちが狂っている。

9.ナゲーなげなわ

道具を悪用したスネ夫が最終的に然るべき報いを受けるタイプの回。

10.びっくり箱ステッキ

スネ夫のビックリ箱から飛び出してくる猫の顔がかわいい。

11.ドロン葉

不幸な犬が登場する回。腹いせにバットで殴られる犬は「ペットそっくりまんじゅう」でも見たが、飼い主が改心して犬との絆を取り戻すこちらの方が児童向け漫画としては正解なのだろう。

12.モノモース

モノが喋るようになるスプレー。

服や本の声が聴こえるようになったら病院へ。

13.ウルトラよろい

ドラえもんにハメられたのび太が非武装でジャイアンに喧嘩を売ってしまう話。

仮にのび太が『裸の王様』を知っていたら、スネ夫が変に疑わなかったなら、無抵抗のジャイアンをバットで殴る機会は得られなかっただろう。

14.シンガーソングライター

歌詞を吹き込むと自動で作曲してくれる道具をジャイアンに渡したら新曲100曲発表リサイタルに付き合う羽目に遭うという、恩を仇で返される系の話。

15.いっすんぼうし

一寸法師+帽子=いっすんぼうし←その発想は無かった! というお話。

アイスをたくさん食べるために道具を使うというオチは「大男がでたぞ」でも見た。

16.サハラ砂漠で勉強はできない

勉強の能率を上げるために環境を整えるお話。試験前に部屋を掃除しているうちに時間が消し飛んだ経験を誰もが思い出す。

遠方地の景色を見る道具で遭難者を発見する展開は、36巻収録「断層ビジョン」でも見られる。

17.雲ざいくで遊ぼう

連続稼働すると道具に不具合が発生するという発想は当時の家電事情が反映されている感じがして面白い。雲といえば『雲の王国』だけど、大長編の話は別枠で。

18.あらかじめ日記はおそろしい

「あらかじめ日記」を燃やすオチ。『天気決定表』でも見たぞ! いい加減にしろ!

19.パパもあまえんぼ

大人になる寂しさというテーマは『りっぱなパパになるぞ!』とダブるところがあるが、こちらは過去へ向かう。ドラえもんのび太の関係性が凝縮されたエピソードでもあるので、研究には欠かせない回だろう。のび太が食欲が無いと言って残したブドウをちゃっかり頂いてから様子を見に行くドラえもんの抜け目なさが愛おしい。

20.宇宙ターザン

ライオン仮面』に並ぶ知名度を誇る劇中劇、『宇宙ターザン』が登場。

言うまでもなく押さえておくべきエピソード。23ページのお話。

落ち目の特撮番組『宇宙ターザン』を応援するのび太と、全てを冷ややかな目で見るドラえもん……という対比構造は、まあ巧いですねという感じ。

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子供の頃は二人の温度差を笑っていたんだけど、いい歳こいて『ドラえもん』に時間を割いている現在の自分には笑えないものがある。

 

それにしても『宇宙ターザン』の再興を成し遂げたのび太が、いちファンとしても一層深い作品愛に目覚めて終了するという〆は感慨深い。

STAND BY ME ドラえもん』が大ヒットした頃、何となくこの『宇宙ターザン』のエピソードが頭に浮かんだ。この話はまた今度。

 

人生を見つめ直しつつ、『ドラえもん』に奉仕することのできない自己と向き合ったのでおわり。